薬剤性肺障害は,「薬剤を投与中に起きた呼吸器系の障害のなかで,薬剤と関連するもの」と定義されます。薬剤性肺障害が注目される契機となったのは,分子標的薬gefitinib が世界に先駆けて上市された2002 年です。同薬による薬剤性肺障害が多発し社会問題化したため,日本呼吸器学会(JRS)は2006 年4 月,『薬剤性肺障害の評価,治療についてのガイドライン』を発刊しました。その後も,新規薬剤による薬剤性肺障害が増加し,mTOR 阻害薬にみられるような新たな病態も出現したため,2012 年5 月,ガイドラインから『薬剤性肺障害の診断・治療の手引き』とリニューアルが図られました。新たな分子標的薬や生物学的製剤などの開発,市場投入は留まるところを知らず,2014 年には免疫チェックポイント阻害薬(ICI)nivolumab が販売開始となりました。目まぐるしく変わる市場を背景に,2018 年11 月,JRS は『薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第2 版』を発刊しました。近年,新規のチロシンキナーゼ阻害薬やICI の開発は目を見張るものがあり,ICI による免疫関連有害事象(irAE)という新たな病態も登場しました。さらに,2020 年に発売された抗体薬物複合体であるtrastuzumab deruxtecan は,重篤な薬剤性肺障害を惹起することで知られています。このような背景から,この度『薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第3 版』を発刊する運びとなりました。本書では,薬剤性肺障害に関する最新の知見を反映させるとともに,日常診療での参考になるよう一般医家向けの記載も充実させました。薬剤性肺障害の診断に際しては,すべての薬剤は肺障害を起こす可能性があることを念頭に置き,まず疑うことが重要です。多種多様な薬剤を扱う臨床医は薬剤性肺障害に遭遇する可能性が高く,肺に異常陰影の出現をみた場合,必ず鑑別しなければならない病態です。呼吸器内科医のみならず,あらゆる診療科の先生方に『薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第3 版』をお手元に置いていただき,早期の発見と対応にご活用いただけたら幸いです。(一般社団法人 日本呼吸器学会 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第3 版作成委員会「はじめに」より抜粋)
はじめに
日本呼吸器学会 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き 第3 版 作成委員会
COI(利益相反)について
第3 版 改訂のポイント
主な略語一覧
薬剤名一覧(一般名)
薬剤名一覧(略語)
第Ⅰ章 薬剤性肺障害の基礎知識
A. 定義と疾患概念
B. 臨床病型とその考え方
C. 発生機序
D. 疫学
第Ⅱ章 薬剤性肺障害の診断・検査
A. 診断手順
B. 鑑別すべき疾患
C. 鑑別の流れ
D. 血液検査などの抗体検査
1. 非特異的な炎症反応,組織障害,アレルギー反応をみる検査
2. 肺胞上皮特異的マーカー(KL-6,SP-A,SP-D)
3. 薬剤リンパ球刺激試験(DLST)
4. 鑑別診断のための検査
5. 薬剤性肺障害のバイオマーカー探索の試み
E. 胸部画像所見
1. 画像診断に必要な臨床の知識
2. 薬剤性肺障害の画像診断に必要な病理の知識
3. 薬剤性肺障害の胸部画像所見
4. 特定の薬剤の肺障害
5. 薬剤性肺障害の診療における画像診断の役割
F. 気管支肺胞洗浄(BAL)
G. 病理組織所見
H. 薬剤負荷試験
I. 重症度索引
第Ⅲ章 薬剤性肺障害の治療と予後
A. 治療
B. 個別の治療指針が存在する薬剤
C. 予後
D. 患者指導
第Ⅳ章 薬剤性肺障害の臨床病型と主な原因薬剤
A. 間質性肺炎
B. 肺水腫
C. 好酸球性肺炎
D. 気道系病変
E. 肺血管病変
1. 肺高血圧症
2. 肺胞出血
F. 胸膜病変
G. 呼吸中枢障害,神経・筋障害
第Ⅴ章 各種の薬剤による肺障害
A. 抗悪性腫瘍薬
1. チロシンキナーゼ阻害薬
2. 免疫チェックポイント阻害薬
3. 抗体製剤
4. プロテアソーム阻害薬
5. mTOR 阻害薬
6. その他の分子標的治療薬
7. 非分子標的治療薬
B. 関節リウマチ(RA)治療薬
1. 従来型合成抗リウマチ薬
2. 低分子免疫抑制薬/抗リウマチ薬
3. 生物学的製剤
C. 漢方薬
1. 小柴胡湯
2. その他の漢方薬
D. サイトカイン製剤
1. インターフェロン(IFN)
2. インターロイキン2(IL-2)(イムネース®,セロイワ®)
E. 潰瘍性大腸炎治療薬
1. 5-ASA 製剤
2. Vedolizumab(エンタイビオ®)
3. Ustekinumab(ステラーラ®)
F. 抗微生物薬
G. 抗不整脈薬
1. Amiodarone(アンカロン®)
2. その他の抗不整脈薬
H. 抗血栓薬
I. 生活習慣病治療薬
1. 降圧薬
2. 糖尿病治療薬
3. 脂質異常症治療薬
J. 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)・アセトアミノフェン
K. 健康補助食品(サプリメント)
第Ⅵ章 医療連携
A. 薬剤性肺障害を疑う症候
B. 薬剤性肺障害を疑う際の検査
C. 薬剤性肺障害を疑う際の対応
D. 専門医への紹介のタイミング
第Ⅶ章 医薬品副作用被害救済制度
A. 医薬品副作用被害救済制度
B. 医薬品副作用被害救済制度の給付の対象
C. 給付の種類と請求方法
第Ⅷ章 薬剤性肺障害が疑われた際の文献検索の方法
A. 医薬品添付文書,医薬品インタビューフォーム
B. 副作用が疑われる場合の報告
C. 医薬品による副作用に関するそのほかの情報源
索引